企業法務の資料室

「スタートアップとの事業連携に関する指針」について~概要~

1 令和3年3月29日、公正取引委員会と経済産業省は、スタートアップ企業と他の会社が事業提携する際の指針となる「スタートアップとの事業連携に関する指針」を発表しました。

 

公正取引委員会:https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/startup.html

経済産業省:https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210329004/20210329004-1.pdf

 

企業連携によるイノベーションを成功させるためには、スタートアップ企業が大企業から一方的に不利な契約上の取決めを求められたりしてはならないとの問題意識に基づいて、この指針は作成されています。
 この指針は、スタートアップ企業が他の事業者と事業提携を行う際の典型的な契約類型である
① 秘密保持契約(NDA)
② 技術検証契約(PoC)
③ 共同研究契約
④ ライセンス契約
を主たる題材として契約類型ごとの問題事例を独占禁止法の観点から整理するとともに、その具体的な改善の方向性を提案しています。

 

2 本指針は、それぞれの問題事例について、結局「優越的地位の濫用」として独占禁止法違反となるのかという点に関しては歯切れの悪い表現になっていると言わざるを得ません。また、本指針は、スタートアップ企業に不利益な契約上の取決めがなされる背景要因の1つとして「スタートアップ企業側には法的リテラシーの不足がある」ことを指摘しながら、一定程度の法的リテラシーがないと理解できないような表現で記載されている点が何よりも残念でした。
 とはいえ、この指針の必要性は大いに肯定できますし、4つの契約類型ごとに問題事例や改善の方向性を記述している点も参考になるものです。そして、本指針は、大企業から不利益な契約上の取り決めを要求されているスタートアップ企業が、契約条項の修正を申し入れる際に

 

「この条項は、公正取引委員会が公表した「スタートアップとの事業連携に関する指針」に反している ので修正を求めます」

 

と主張することができ、公平な契約交渉を実現できるツールとなり得ます。
 また、大企業側の契約担当者としても、その大企業で使用されている契約書式から修正する際にはそれなりに理由が必要とされますが、本指針に違反するおそれがあるという理由があれば、修正に応じやすくなります。
 大企業との事業連携を考えているスタートアップ企業としては、本指針を最大限活用して契約交渉を行い、公平な事業連携によるイノベーションを実現しましょう(文責:中川真吾)。

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